「こあん」 ー もじょに捧ぐ



ー いずれ、まちがいなくやって来る。何年したら… いつなんだろう。必ず失ってしまう…

時折、誰もいない広い広い河原で僕は子供みたいに泣きじゃくっていた
それはいつでも幸せのさなか、一緒に楽しく過ごしているその時
もっとも無防備なその時を捉え、突然やって来るから。

何事かと、走り寄って来るもじょ
「どうしたの、どうしたの?」
膝を抱えうつむいている僕の脇から無理やり入り込み、必死に顔を、泪を、舐め続けてくれる。

傍に静かに近寄って来、目を細め、ただこちらを見ているだけの事もあった
「それは、仕方のないことなんだ」そう言って…
そんな時のもじょの声は、とても低かった様に思う。





この世で、もじょと最も多くの時を過ごしたのは、僕だ。

その命の時の大半を共にしていてくれた事を想う時
心の奥の奥から湧き上がる「ありがとう」

ゆったりとした波の様な感謝に包まれ
静かにどこかに、深く沈んでゆく
息をするのを忘れるくらい、とても穏やかな心持ちになる。

ー このまま、もじょの所に行けるかな
そんな事を思い始める。





「こあん」は造語です。

ー こいつがいなくなってしまったら。 そうしたら、ひとりぼっちなんだ。

そんな思いがいつも頭をよぎっていた頃、最初頭に浮かんだのは「孤庵」
でもこれじゃ、いくらなんでも寂しすぎる…
「己」にしてみるか。一から十まで、自分で為さねばならない訳だから「庵」は「案」でもいい。
「己庵」「孤案」「己案」
子供の発想はいつでも素敵だ「仔案」「仔庵」
「個」「小」「固」。「安」「餡」「杏」
ここまでの順列組み合わせだけで相当な数、生まれた意味それぞれ全て悪くない。
「co.」とか「ann」なんてのもある。

という訳で、仮名文字の「こあん」になりました。





7月。 唯一の友達が、名前を呼び続ける手の中で最後の息を吐ききって
静かに「こあん」は始まりました。

初めての町、知らない道だって一緒にぐんぐん進んで
言葉そのままに駆け回り遊んだ、河川敷の広い草むら
疲れたら並んで座り さやぐ梢、遠い薫りに季節を見付けた
身体を洗ってやり 同じものを食べて
一緒に働き 寝顔にお休みを言って、眠った

もじょ、ひとりでは知らない道をどう進めばいいのか分からないよ…
もじょ、いつかまた会えるね、信じている
そうしたらもう、お別れはしなくていいんだよね。

その時まで、僕はそっと「こあん」を続けよう。




  2016年11月 落 大造











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